「おめでとうございます!異世界転生が完了しました!」
男は目を覚ました。
「え、俺……死んだんだっけ?」
「はい。過労死ですね。なので、特別に異世界転生のチャンスを差し上げました」
「マジか。ありがてえ……」
「今回、あなたには“魔王コース”をご用意しております」
「え?魔王?俺、勇者がいいんだけど……」
「申し訳ありません。今、勇者は供給過多でして。魔王は人材不足なんです」
「そんな理由で!?」
「ご安心ください。特典として、最初から世界征服の8割は完了しています」
「……マジで?」
男が立ち上がると、黒いマントがひるがえった。
手には禍々しい杖。鏡を見ると、角が生えていた。
「ほんとに魔王じゃん……」
※
男は部下の魔族たちに迎えられた。
「魔王様!待っておりました!あと2国で完全征服です!」
「……え、まじかよ」
「さあ、残りも滅ぼしましょう!この世界を完全に我らのものに!」
男は、なんだかんだで流れに乗って征服を進めた。
2週間で、すべての国を滅ぼした。
「はー、これで世界征服か……」
※
だが、征服が終わったあと、男はふと疑問に思った。
「これ……征服したあと、何すんの?」
部下に聞いてみた。
「さあ?」
「……え?」
「魔王が世界を取ったあとは、いつもそうでした。みなさん、だいたい暇になって病んで滅びます」
「いや、なんでそんなシステムなんだよ」
男は思わず笑った。
「まぁ、いいか。せっかくだし、のんびりしよ」
※
だが、次の日。空から巨大な目が現れた。
『はい、お疲れさまでしたー』
「……え?」
『あなたの“魔王体験”は、これで終了です。』
「え?」
『この世界は、上位存在が管理する「魔王役割体験シミュレーター」です。
世界征服が完了すると、自動的に回収されます。』
「ちょ、待て待て!回収ってなに!?」
『魔王役の魂は、使用後リサイクルされます。再利用のため解体しますね』
「解体!?いや、俺、人間だったはずだろ!?」
『いえ、今は“魔王役”ですから。魔王は世界を取ったら、役目が終わるんですよ』
「ふざけるなよ!元の世界に戻――」
男の体が黒い粒子に分解され始めた。
『次回は「勇者役」でのご利用をお待ちしております』
「……え?」
最後に、空からこんな音声が流れた。
「勇者役も、討伐後は同じシステムですけどね」