奇妙な異世界

ああ、そういうことか

【短編小説】目覚めたら魔王でした

 

「おめでとうございます!異世界転生が完了しました!」

 

男は目を覚ました。

 

「え、俺……死んだんだっけ?」

 

「はい。過労死ですね。なので、特別に異世界転生のチャンスを差し上げました」

 

「マジか。ありがてえ……」

 

「今回、あなたには“魔王コース”をご用意しております」

 

「え?魔王?俺、勇者がいいんだけど……」

 

「申し訳ありません。今、勇者は供給過多でして。魔王は人材不足なんです」

 

「そんな理由で!?」

 

「ご安心ください。特典として、最初から世界征服の8割は完了しています」

 

「……マジで?」

 

男が立ち上がると、黒いマントがひるがえった。
手には禍々しい杖。鏡を見ると、角が生えていた。

 

「ほんとに魔王じゃん……」

 

 

 

 

男は部下の魔族たちに迎えられた。

 

「魔王様!待っておりました!あと2国で完全征服です!」

 

「……え、まじかよ」

 

「さあ、残りも滅ぼしましょう!この世界を完全に我らのものに!」

 

男は、なんだかんだで流れに乗って征服を進めた。
2週間で、すべての国を滅ぼした。

 

「はー、これで世界征服か……」

 

 

 

 

だが、征服が終わったあと、男はふと疑問に思った。

 

「これ……征服したあと、何すんの?」

 

部下に聞いてみた。

 

「さあ?」

 

「……え?」

 

「魔王が世界を取ったあとは、いつもそうでした。みなさん、だいたい暇になって病んで滅びます」

 

「いや、なんでそんなシステムなんだよ」

 

男は思わず笑った。

 

「まぁ、いいか。せっかくだし、のんびりしよ」

 

 

 

 

だが、次の日。空から巨大な目が現れた。

 

『はい、お疲れさまでしたー』

 

「……え?」

 

『あなたの“魔王体験”は、これで終了です。』

 

「え?」

 

『この世界は、上位存在が管理する「魔王役割体験シミュレーター」です。
 世界征服が完了すると、自動的に回収されます。』

 

「ちょ、待て待て!回収ってなに!?」

 

『魔王役の魂は、使用後リサイクルされます。再利用のため解体しますね』

 

「解体!?いや、俺、人間だったはずだろ!?」

 

『いえ、今は“魔王役”ですから。魔王は世界を取ったら、役目が終わるんですよ』

 

「ふざけるなよ!元の世界に戻――」

 

男の体が黒い粒子に分解され始めた。

 

『次回は「勇者役」でのご利用をお待ちしております』

 

「……え?」

 

最後に、空からこんな音声が流れた。

 

 

 

「勇者役も、討伐後は同じシステムですけどね」