奇妙な異世界

ああ、そういうことか

【短編小説】レンタル神様

 

ある日、街角に「神様レンタル屋」ができた。
看板には、かわいいイラストとポップな文字。

 

『1日1,000円で、あなたの願いをお手伝い!』

 

「いやいや、神様が1,000円って安すぎだろ」

 

そう思いながらも、好奇心で男は店に入った。

中には、白いヒゲの小さな老人が座っていた。
まるで童話に出てくるような、やさしそうな神様だ。

 

「いらっしゃい。今日はどんな願いかな?」

 

「うーん……とりあえず仕事がうまくいけばいいかな」

 

「よろしい。では、今日一日だけ手助けしましょう」

 

男が1,000円を払うと、神様は目を閉じた。

 

「――はい、願いは叶いましたよ」

 

 

 

 

その日、男は会社で奇跡的にプレゼンが成功した。
上司に褒められ、同僚にも感謝され、まるで夢のようだった。

 

「……マジで神様だったのか」

 

次の日、男はまた「神様レンタル屋」に行った。

 

「おかえり。今日は?」

 

「今日も仕事お願い。あと、ちょっとモテたい」

 

「かしこまりました」

 

男は1,000円を払った。
すると、仕事はまたうまくいき、同僚の女性からも食事に誘われた。

 

「……すごいな、これ」

 

 

 

 

 

それから男は毎日、神様を借りた。
最初は仕事、恋愛、趣味。
だんだん欲が出てきて、宝くじも買った。
すると、本当に当たった。

 

「……やばいな、コレ」

 

男は気づけば億万長者になり、モテモテになっていた。
神様は毎日笑顔で「はい、叶いましたよ」と言う。

 

「……これ、ずっと使ってて大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫ですよ。ただ、念のためにお伝えしておきますね」

 

神様は柔らかく微笑んだ。

 

「願いごとには、利息がつきますから」

 

「……え?」

 

「お金もそうでしょう?借りたら返す。それと同じですよ」

 

「いや、でも1,000円払ってるじゃないですか」

 

「それはレンタル料です。叶えた願いは、ちゃんと返済してもらわないと」

 

「……どうやって?」

 

神様は、ちいさな紙切れを男に渡した。
そこにはこう書いてある。

 

『お支払い方法:来世にて全額一括徴収』

 

「……来世?」

 

「はい。簡単ですよ。次に生まれるとき、全部まとめて払ってもらいます。
 利息も含めて、ね」

 

男は笑うしかなかった。

 

「ま、まぁいいか。今が楽しければ」

 

「ええ、ええ。みなさんそうおっしゃいます」

 

 

 

男はその後も、毎日神様を借り続けた。
人生は最高に楽しかった。欲しいものは全部手に入れた。

 

 

……ある日。
男は寝ている間に、心臓が止まった。

目を覚ますと、真っ白な空間にいた。
目の前には、あの「神様レンタル屋」の老人が立っていた。

 

「おや、おつかれさまでした」

 

「……ああ、ついに死んじゃったか」

 

「はい。では、精算ですね」

 

神様は柔らかい声で言った。

 

「えーと、お客様の願いの総数は1,527件。
 利息を含めると、だいたい――」

 

神様は指をパチンと鳴らした。

 

次の人生、約8000年分の不幸コースで帳消しにしておきますね

 

「え……」

 

「さ、次に生まれる準備をしましょう」

 

男は神様に手を引かれながら、真っ暗な穴の中に吸い込まれていった。